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レオ・レオニの絵本の世界:『フレデリック』

ある暖かな日。のねずみたちがせっせと冬ごもりの準備をしています。
ところがフレデリックはただ一人、じっと座りこんだままです。
「どうして きみは はたらかないの?」そうたずねる仲間にフレデリックは…。

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オランダ出身の絵本作家、レオ・レオニの代表作、『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』。
忙しく働く仲間をよそに、フレデリックは怠けているようにさえ見えます。呆れたように仲間がたずねると、彼はあるものを集めているのだと言いました。
やがて長い冬がやってきました。凍えるような寒さと飢えは、のねずみたちからおしゃべりをする気力さえ奪っていきます。仲間たちがたずねました。
「きみが あつめた ものは、いったい どう なったんだい、フレデリック。」

実はフレデリックが集めていたのは、「おひさまのひかり」や、あたたかい世界にあふれる色、そしてみんながわくわくするような言葉(詩)たち。
仲間たちが目をとじて、フレデリックの語りに耳を傾けると、本当に体があたたかくなってきて、頭の中には塗り絵をしたように、あざやかな色が蘇ってくるのでした。仲間たちはフレデリックに拍手喝采。

どうしてフレデリックは食べ物ではなく、あえてこういったものを集めていたのでしょう。
子どもの頃にこの絵本を読んだときには、それらがまだ十分に理解できていなかったように思います。
仲間ののねずみたちが次第に言葉少なになり、楽しいおしゃべりさえもやめてしまったのは、きっと寒さやひもじさのせいだけではないのです。 
彼らが長い冬を越すのは、石のあいだの小さな隠れ家。はじめは食べ物もたくさんあったけれど、次第にそれも底を尽き、その上周囲は見わたす限り灰色一色の世界だったことでしょう。美しい花や、鳥の声、優しくそよぐ風の音もありません―。のねずみたちは空腹と同時に、「心の豊かさ」にも飢え始めていたのです。
そしてフレデリックは、きっと「おひさまのひかり」のあたたかさやまぶしさ、野の花のあざやかさや美しさ、それらを豊かに語り、表現したのでしょう。フレデリックは舞台の上の俳優さながらでした。

たとえば美術館で絵画を鑑賞したり、音楽を聴いたり、演劇を観たりといった「芸術」を楽しむ行為。それらは、生きていくのに必ずしも必要不可欠なものではないかも知れません。けれどなくなってしまったら、私たちの心はけっして豊かではなくなってしまう。フレデリックは、それがみんなに必要とされるときが必ず来ることを、そしてそれが必ずだれかを救うことを、教えてくれているような気がします。そしてそれを仲間の前で示したフレデリックこそ、芸術家レオ・レオニ自身の姿が投影されたものなのかも知れません。

レオ・レオニの絵本はいつもどこか哲学的で、物語の背景にはさらに隠れた意味を含んでいるように感じられます。けれど、だからこそ大人になってから改めて読んでみることで、その深い意味合いに気付けたり、新たな感動を覚えることもできるのでしょう。さらに詩人の谷川俊太郎さんが、そのままのメッセージを大切に日本語訳にのせて私たちに伝えてくれています。まさに世代の垣根を越えて、読みつないでいきたい絵本です。

ミュージアムショップではフレデリックの絵本のほか、ぬいぐるみも併せて販売しています。表紙の絵柄そのままに再現されたフレデリックがの表情が何とも愛くるしいです。お子さまにはぜひセットで贈るのもおすすめです。絵本を読んでさらにレオ・レオニ自身に興味を持たれた大人の方は
のねずみたちのように耐え忍ぶ厳しい冬ももうすぐ終わり、春ももうすぐ。ぜひこの機会に、レオ・レオニの絵本の世界に触れてみてください。

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