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「芸術とは、人を驚かせることである」

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「芸術とは、人を驚かせることである」
嶋本昭三/著
毎日新聞社/出版

タイトル「芸術とは、人を驚かせることである」は嶋本昭三が述べた自身の制作方針というべき言葉です。本書籍では、実際にその言葉を実践してきた嶋本の活動、またはそれに通ずる独自の考えがまとめられています。
また、書籍自体の厚みに対して、内容は全て章ごと、複数の2~6ページ程度のショートエピソードで構成されているため非常に読みやすい1冊となっています。

各章には、それだけで興味をそそられる面白い表題が付けられているのですが、第1章を挙げると「スルメに切手を貼って送ってきたーメールアートのすすめ」とあります。「スルメに切手」という何とも不思議な言葉が頭から飛び出してくるのです。
これは嶋本が活動の一つとして行っていたメールアートに関わる内容を示しているのですが、当館では、なんと章内でスルメと共に紹介されている「干しダコに切手」を貼って送ってきた実際のメールアートが展示されています!
よくこれが郵便で送れたなと驚くばかりですが、大きさや重さ、また配送中に破損してしまうような物でなければ意外と送れてしまうようです。(少なくとも当時はですが。)
嶋本の元には他にも様々な物が送られてきたそうで、実際、その行為を全員がメールアートとして行ったかどうかは別として、送った側のユーモアと、受け取った側の驚きに溢れていたことは間違いないでしょう。

また、この項で嶋本は「アートの世界に参加できないと思っていた人たちが大きなエネルギーで僕に送ってくることが重要だ」と述べています。
多くの人が、美術という物が一部の感性のある人たちが行う分野であると感じてしまい、足踏みをしてしまいますが、もっと多くの人たちが自由に触れる事のできる物と捉えるべきだと、また、そういった環境に無い日本の現状に警鐘を鳴らしています。

そういった中で、嶋本はメールアートを人に勧める際、絵が下手であるというコンプレックスを持っている人にも気軽に参加できるよう促すため「下手に描かなくてはならない」と言い切ったそうです。
何より、上手い下手という言葉に左右されない、優劣を付けないのが「メールアート」という活動の本質であり、美術界のヒエラルキーという物に抵抗して生まれた物だそうです。
ある分野に関わる物が複数集まると、そこには評価が生まれ優劣に繋がってしまいます。評価に値しないとされ淘汰されていくアートが存在するということ、評価を得るための制作に靡(なび)いてしまう、表現の自由を狭めてしまうということ。こういった問題を解決する、変革をもたらす光明がメールアートには秘められていると嶋本は訴えています。

本書は1994年の発行で、従来の「瓶投げパフォーマンス」のイメージとは違った嶋本昭三の芸術活動、具体時代やメールアート、あるいは芸術貢献とも言うべき内容が多く掲載されています。特に、貢献といった類の活動には嶋本が元々教師であったことも非常に大きく影響しているようです。
大砲で作品を描いたり、自身の頭(スキンヘッド)に字を書いたり、映像を投影したり、はたまた自身を十字架に磔にしたりと、各章に驚くような出来事が飛び出します。そんな破天荒な一面とは裏腹に、障がいを持った人たちのアート、子供のアート、そして、今までにない発想がためにそれを理解しようともせず切り捨てられたアートに目を向ける事の重要性など、「芸術とは」とタイトルにあるように、自身の活動の紹介だけでなく美術に対する考えが散りばめられています。

その中で、個人的にとても素敵に思ったのは「優れた感覚」という考えについてです。
芸術に対する理解力のある人が、繊細な精神の持ち主が優れた感覚を有する人のように日本では思われがちだという言葉に始まり、しかし
「本当は、誰からも顧みられないゴミのようなものの中から美しさを拾い上げる事のできる能力こそ優れた感覚と呼ぶべき」。と語っています。
多くの分野で、海外で評価されると日本でも評価されるといった風潮があります。人が良いと言ったから良いと捉えるのではなく、自身で気に入った物を見つけることが出来るようになるのが大事なんだと感じました。

最後に、嶋本の考えとは別に、出来事の記載で個人的に興味深かったのが「草間彌生」が約1ページ程度ですが名前が挙がったことです。
1993年の第15回ヴェネチアビエンナーレに嶋本等具体メンバーは、具体の活動が評価されたことで招待され、同地に1956年に芦屋で行われた具体野外展の再現として展示を行いました。その時、日本館の代表として作品を出展していたのが草間彌生だったのです。
二人が直接話しをしたといった内容ではないのですが、同世代(1学年違い)の二人が日本を代表する世界的アーティストとなっていることに、どことなく驚かされます。

活動の歴史や嶋本自身の持論だけでなく、思わず笑ってしまうような純粋に面白いエピソードもたくさん詰まった一冊です。
今回の企画展にあたって嶋本を知る上できっと参考になるのではないでしょうか。

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