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「王女とロバのちいさな劇場」(Mon petit théâtre de peau d’âne)

「王女とロバのちいさな劇場」(Mon petit théâtre de peau d’âne)はジャン=ミシェル オトニエルのアーティスト本として(Editions courtes et longues社、2011年)9歳以上のお子さんを対象に出版されました。2005年オトニエルは、同名の展覧会を行っています。フランス文学者で著名なマリー・デプランション氏による美しい文面で書かれた、アーティストの幼少期と大人になってからの時間が緻密に折り重なる構成となっている絵本風のカタログです。

王女とロバのちいさな劇場_2

この本は、6歳のジャン=ミシェルが初めて行った展覧会でロベールモリスの作品と出会い、アーティストの遊び心に衝撃を得るところから始まります。その後、ジャン=ミシェルはパリへの家族旅行の記憶の中で、ポンピドゥセンターで見たデュシャンのチョコレート粉砕機や地面に置かれたマント掛けを見てアートの自由さに引き込まれます。小さいながらにこんな風に自由に生きられたらどんなに幸せかとアートへの関心が早い段階で芽生えるのです。

王女とロバのちいさな劇場_1

大人になったジャン=ミシェルはジャック・デミー監督の「ロシュフォールの恋人たち」で有名なロシュフォールの地で作家ピエール・ロチの生家を訪れます。そこで偶然にも童話「王女とロバ」をモチーフにした手作り人形の入った小さな箱を見つけます。人形作りはピエール・ロチが11歳から15歳の時に夢中になった趣味であり、その異国情緒あふれる世界観が後の彼の小説作品にそっくりであることにオトニエルは感動を覚えます。
オトニエルは自分自身がピエール・ロチが夢見た「未だ見知らぬ後継者」であるのではとハッとします。そして現存する50数個ある人形のうち保存状態のよい30を選び、その人形に合ったサイズのガラスでできた舞台、彫刻を作る決心をするのです。
オトニエルは全ての下絵を描き、「王女とロバ」の場面に応じた4つのテーブルとガラスの容器、それを覆う巨大なドレス、そして人形たちのための舞台装置を、お針子さん、家具職人、ガラス職人の卵たちに特別に作ってもらいます。
1年半以上もの年月をかけて仕上がったこのプロジェクトはロシュフォール、トルコのイスタンブール、パリのシャトレー劇場そしてポンピドゥセンターで発表されました。150年前にピエール・ロチが自らの手で作りあげた小さな人形たちが織り成す世界がオトニエルの新しい舞台装置、ちいさな劇場でお披露目されたのです。

この本はオトニエルの水彩画からピエール・ロチの小さな人形たちまでの豊富な写真を紹介しており、本そのものに美しい宝石箱のようにキラキラと輝く装丁が施され、言葉がわからなくても本棚に飾っておきたい一冊です。本の最後はこの物語を読み解くキーワードがのっており、さらなるアーティストの哲学の理解ができるようになっています。

学芸員 石川なみ乃