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グラフィック・デザインという視点から クール(Cool)・ミッフィー

出身国・オランダ語の名前は「ナインチェ・プラウス」。
「ふわふわのうさちゃん」という意味だそう。
その名の通りかわいらしい見た目に隠された、ちょっぴりクールな一面に、大人になって出会うことができました。

ミッフィー_1

誰もが小さい頃に絵本で親しんだ「ミッフィー」。(日本語版の絵本では「うさこちゃん」と訳されますが、ここでは「ミッフィー」で統一しています。)
グラフィック・デザイナーのディック・ブルーナが生み出し、今や世界で最も有名なうさぎの女の子。そして作者のブルーナを「絵本作家」ではなく「グラフィック・デザイナー」としたのには訳があります。

ディック・ブルーナ(本名ヘンドリック・マフダレヌス・ブルーナ)は、1927年、オランダのユトレヒトで出版社(A・W・ブルーナ&ゾーン社。以下ブルーナ社)を営む由緒ある家庭の長男として生まれました。
幼い頃から絵を描くのが好きだったブルーナはやがて画家を志しますが、長男として会社を継がせたかった父親と対立し、「経営の勉強をするのなら」という条件付きで高校を中退、海外に渡りました。
帰国後ブルーナは1951年(24歳)、実家のブルーナ社にデザイナーとして入社、同社で扱うペーパーバック(日本でいう小説などの文庫本)の装丁を手がけるようになります。

「シンプルで、力強いこと。」「人の目を惹きつける魅力があること。」
本の表紙やそれを宣伝するポスターは、売り上げを左右する重要なものです。
これはブルーナ自身の言葉ですが、すなわちデザイン全般における普遍的なテーマと言っていいでしょう。
彼のデザインはたちまち人気を博し、有名なものでは小説の主人公をアイコン的に表現した刑事「ハファンク」や怪盗「セイント」などが、そして読書に熱中するあまり目が真っ赤になってしまったクマをモチーフにした「ブラック・ベア」は、同社が刊行する「ブラック・ベア・シリーズ」の、ひいてはブルーナ社を代表するキャラクターになりました。
大胆かつ無駄のないシンプルな構図、明確な色彩、ときにはコラージュや切り絵などを多彩に用い、物語や伝えるべきメッセージを、最小限の要素の組み合わせによって明らかに表現する彼のデザインは、現在にいたっても色褪せることなく、むしろ洗練さや、グラフィック・デザインの手本としての普遍性を感じさせます。

そして彼のグラフィック・デザインのスキルが存分に発揮されているのが、ミッフィーをはじめとする絵本なのです。
常に意識するのはやはり、「どこまでもシンプルであること。」
ミッフィーら登場人物、周りに配置される家や草木、そのどれもが、無駄のないシンプルなかたちです。(ミッフィーの顔が誰でも描くことが出来るような、単純な記号の組み合わせのようにできているのも、そんな狙いからだそうです。)
色づかいもいたってシンプル。ブルーナは絵本には基本的に決まった6色(赤・青・緑・黄色・茶色・グレー)しか使わず、それらはブルーナ・カラーと呼ばれます。
黒くくっきりとした輪郭線は、それら色彩を明確に分割し、よりかたちを際立たせて、私たち読者に強い印象を与えています。また背景の色を変えることによって、たとえば赤や黄色は明るく楽しいイメージ、緑は屋外の自然、青は夜や悲しみと言ったように、場面ごと効果的に感情を与えています。
物語を語るうえで重要な役割を担う文章も、もちろんデザインの一つ。
見開きの半分に、四行。さらに言えばページ数は必ず全12枚。内容によって多くしたり、減らしたりもしない。ポスターという、限りなく文字情報の制約と、ビジュアル部分の訴求力が求められる場においてブルーナが実践してきたことが、やはりここにも活かされているのです。

物語の内容もさることながら、世界中の多くの人がミッフィーに惹きつけられているのは、そして小さい頃に出会ってから今まで、ずっと忘れずにいられるのは、絵本制作の根底にもやはりグラフィック・デザイナーとしてのブルーナの気質と理念があるからなのでしょう。

ミュージアムショップでは、今回新たにポストカードやマグネット式のブックマークが入荷し、ちょっとしたミッフィーコーナーが出来あがりました。
ポストカードは送るだけでなくフレームに入れて飾ることで、ブルーナが絵本の挿絵にも目指したポスター的要素・魅力が味わえるはずです。
ブックマークは読書のおともに、外出先でもいつでもミッフィーと一緒にいられます。
絵筆を持っておすましのミッフィー、真剣に絵を描くミッフィー、そして美術館で絵画を鑑賞するミッフィー…どれも美術や美術館に関連する絵柄をこだわって集めました。

小さい頃に親しんだ、古くから知っている友達のような存在―
キャラクターものはかわいすぎてちょっと…なんて思いつつも、そのかわいらしい見た目に隠された秘密を知ると、「なんておしゃれでかっこいいんだろう!」
ますます好きになって、これからもずっと友達でいて欲しいと思ってしまうのでした。

ミッフィー_3