小山利枝子

3人展2人目の紹介。小山利枝子さんです。

今回の出展作家では他のお二人が描くモチーフを人物ベースにしているのに対して、小山さんは唯一「花」をモチーフとして描く作家さんです。
そして、今回3名の出展いただいた作品で一際目を引くのが、小山さんの100号サイズの作品「魅惑にみちた出現」かと思います。画面いっぱいに描かれたその花には確かに「魅せる」何かを感じさせます。

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描かれている花はアブラナ科のストック。筆ではなく油絵用のブタの毛で出来たハケを使って描いていきます。アクリル絵の具を色水ほどにまで薄め、勢い良くただし花弁の方向や形を意識しながら流れに沿って丁寧に塗っていきます。花の持つ美しさを損なわないよう鮮やかさを維持するため混色は避けます。ただ、薄まった色を何度も塗り重ねることで彩度を保ちながら原色にはない色が表情として現れます。また、薄めた色は透明感を生み、硬さや重さを廃して柔らかさや軽さ、花本来の生命の揺らぎを感じさせます。

キャンバスに描く際に下絵は描きません。下絵があることで窮屈となり勢いや躍動的な印象が失われてしまうからです。また小山さんが線ではなく面で描く手法であることも理由の一つでしょう。
ですが、当然いきなりキャンバスに描くわけではありません。小山さんはキャンバスに描く前には必ず綿密なデッサンから入ります。具象を描く際の行為としてデッサンはもっとも基本であり、また対象を観察するという点で重要な行為と言えます。
ストックの花は僅か2cm程と小さく、デッサン自体はその等倍の大きさで描きますが、その「観察する」という行為が実物の何倍もの大きさで描く際の完成形をイメージさせ、作品の出来栄えを左右するのです。

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また、花が持つ生命の力強さ、美しさの表現が小山さんのテーマであり、観察はそれを知る対話的行動とも取れます。たとえ同じ花であっても花弁の形、色合いなどは異なります。観察による新しい発見というのは常に感じられるそうで、時に花弁の連なりが山脈のようにも見えるそうです。
顕微鏡で覗いた先にミクロの「世界」が感じられるように、2cm程の花の中にも繊密な観察によって広大な世界が見えてくるのです。故に何倍にも広がった大きなキャンバスにも抵抗や迷いなく制作に進むことができるそうです。

ただ、デッサンしたストックは実際にはピンク色をしていたそうです。一方、画面に描かれたものは春の芽吹きを感じさせるエメラルドグリーンです。デッサンを重視しながらも花が持つ空気感や、季節の移ろいによって意図的に変化を付けることもあるのです。また、形も決してデッサンと同じにはなりません。下絵がない分、その画面独自の流れがあるからです。また、画面が大きい分小山さん自身の動きにもリズムが生まれます。それは画面内の花の流れと自然と重なり、デッサンの形と異なりながらも違和感なく画面いっぱいに広がってゆきます。それによりただの具象絵画ではなく、ましてやデッサンの延長でもない小山さんのフィルターを通して「昇華」された形で作品となるのです。

近年、多様な芸術表現が日々生まれ、抽象表現的な分野が「現代アート」という中で多数を占めています。その中で自身の感情や社会的批判をテーマに作品に落とし込むことで時代が反映された作品が注目されているように見えます。
しかし、小山さんは作品に自身の感情や俗世間的な情報は一切投影しません。
表現すべきは花・対象が持つ生命の力強さ、美しさ。そこに余計な物を落とし込む必要はなく、僅か2cm程と小さくも咲き誇るそれらには広大な世界を覗かせるほど花は魅力に満ちています。
描くべきテーマは決してぶれることなく、常に真摯にその対象だけに制作が注がれる小山さんの作品をどうぞご覧くださいませ。

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