スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし <スイミーに込められたメッセージとは?>

スイミー。世界中で翻訳され、日本でもロングセラーを記録するレオ=レオニの代表作とも言えます。長年子供にも大人にも愛され続けてきた懐かしい物語の1つ。私も小学生の頃をふと思い出しました。国語の教科書に載っていて、いつも後回しにしていた家での音読も、スイミーの時は1ページ1ページ挿絵をじっくり見ながら読んでいました。今日は当館のレオ=レオニシリーズの1つとして取り扱っているスイミーをご紹介します。
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小さな赤い魚の群れの中に、一匹だけ黒いスイミー。でも泳ぐのは誰よりも速い。ある日仲間は大きなマグロに食べられてしまうが、スイミーはただ一匹生き残る。必死に泳いでたどり着いたところは、来たこともない未知の世界。最初は心細く不安げだったスイミー。だけれど、見たこともない素晴らしい、面白い景色に出会ううちに元気を取り戻す。そんなときスイミーは大きなマグロに怯える小さな魚たちを見つける。スイミーは自分が目になり、みんなで大きな魚のふりをして泳いでマグロを追い払うことを思いつく。みんなで気持ちを1つにして大きな魚みたいに泳げた時、マグロは背中を向けて逃げて行った。

スイミーと小さな魚たちが、力を合わせてマグロを追い出した場面で終わるこの物語は、「みんなで力を合わせれば大きな力を発揮できる」ということがテーマだと受け取られがちですが、作者レオニが伝えたかった真のメッセージは全く別のところにあったようです。そして、そこにはレオニ自身の背景が深く関わっていたのです。

アメリカの新聞社でグラフィックデザイナーとして働き、「あおくんときいろちゃん」で作家デビューを果たしたレオニ。まさに立身出世の真っただ中だったのにも関わらず、アメリカでの名声を捨て、故国イタリアへと帰国しています。その後、イタリアで本格的な芸術活動を始め、次々と絵本を作成、出版していきます。その頃のレオニは、もはやグラフィックデザイナーとしての技術を越え、思想家、哲学者としての表現を盛り込んだ作品を作るようになります。イタリアで一人芸術活動を進める中、第二次世界大戦が終わった世界で「自らが政治的にどういう役割を担えるのか」と模索した時期もあったレオニ。そんな自身を彼は、他の魚と違った特徴をもった黒い魚、スイミーに投影したのです。

仲間を失い、孤独に海をさまようスイミー。最初は寂しかったけれど、ふと回りを見れば美しい世界が広がっていることに気が付き、またその中で自分という存在を意識し始めます。つまり、ここでは孤独の中で自分を見つめることにより、自己認識を深めるというメッセージが込められているのです。そして他の魚とは違う体の色を活かし、「ぼくが目になろう」と魚たちを先導してマグロを追い返すという展開。レオニは異分子であるスイミーを通して、人々にはそれぞれ個性と役割があるということ、そして、芸術家として他の者が見えないものを見ることのできる人間がいるということを伝えたかったようです。

彼のアトリエに近所の子供たちを集めてスイミーの読み聞かせをしたとき、「黒いおさかなは、絵を描く人に似ているとは思わない?この絵本をつくったような絵描きさんに。」と問いかけたそうです。そこからは、レオニが芸術家として物作りを続けきたことに誇りを持っていたことがうかがえます。物語を通して人々にメッセージを伝える。きっと彼は自身の役割を心から愛していたのでしょう。

レオニの書いた作品は誰もが読みやすい物語になっていますが、その裏には意味深いメッセージが込められています。小さなお子さんにはちょっぴり難しい要素も・・・。しかし、メッセージはどれも私たち人間が自分らしく、人間らしく生きるための彼からのアドバイスのような気がします。日々の生活に追われると、いつの間にか忘れかけてしまいがちな大切な心得とも受け取れます。読み手の心にいつまでも残る懐かしの物語、もう一度手に取って読んでみてはいかかが?
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