展覧会 ごあいさつ  館長 松橋英一

1956年10月、具体グループのリーダー吉原治良(1905~1972)は、「具体美術宣言」を発表しています。この中でもっとも有名な部分は、「具体美術は物質を変貌しない。具体美術は物質に生命を与えるものだ。具体美術は物質を偽らない。具体美術に於いては人間精神と物質とが対立したまま、握手している。」という箇所になります。

具体美術は、新しい芸術の目指す方向として人間の資質と物質の特性との結合を謳っていました。それから60年以上が経過した現在、この長い時間を振り返って見ると、この宣言に最も誠実に、一貫して物質(素材)を活かして制作した作家の一人が前川 強(1936~)であったことは、今までに制作された作品群を振り返って見れば疑いの余地がないものだと思います。

前川 強の芸術を今回、あらためて見てみることは、現代芸術が何を求め、何を見つめてきたのかを理解する大きなヒントになるものと思います。

前川 強は子年の生まれで今年84歳を迎えます。彼は現在も現役のアーティストとしてたくさんの作品を作り出しており、今回の展覧会においても近年制作した未発表の作品を多く展示いたします。

本展をご観覧いただき、作者が物質である素材と会話し、素材に対する愛情によって制作した不思議な形や色に出会うことで、観覧していただく皆様が新しい発見をして、幸せな気持ちになることを希望いたします。

2020年2月
軽井沢ニューアートミュージアム 館長 松橋英一