シュルレアリスムに影響を受けて独自の制作を続けていたジョセフ・コーネルは、作品を売らないことで有名なアーティストであった。コーネルの作品を欲しがるコレクターはたくさんおり、多くのギャラリーはその作品を求めてコーネルのもとを訪れるが作品を渡して貰うことはできなかった。コーネルは日中、繊維製品のセールスの仕事をしており、作品は深夜に地下室のアトリエで制作されていた。作品を売らなくても経済的に自立できる状態であり、愛着のある自分の作品を他人へ渡したくないという考えを持っていたコーネルは、母親と障がいのある弟と3人で暮らしていた。
1962年、草間はコーネルの作品を手に入れようと目論むギャラリーの女性に連れられてコーネルのもとを訪れる。着物姿の草間をコーネルは一目で気に入ってしまい、二人の交流が始まる。コーネルは孤独で人見知りであると同時に、ロマンチックな性格で草間に対しては異常なほどの愛情を注ぐ。一日何時間も電話をかけてきたり、毎日たくさんの手紙を草間へ送ったため、草間の郵便箱はすぐにいっぱいになってしまうほどであった。
草間はコーネルに対して困惑する部分もあるが、真の芸術家に対する尊敬の気持ちがあり、二人の魂は深くつながってゆく。
コーネルとのエピソードは、草間が後に著した小説『沼に迷いて』(1992年)に詳しく書かれている。小説の形式をとっているため主人公二人の名前は違うが、明らかに草間とコーネル二人の当時のことが克明に書かれており、興味深い物語となっている。
1972年、コーネルがこの世を去ると、大きな悲しみで精神が不安定となった草間は、翌年 日本に帰国する。当時の草間の作品にはコラージュが多く、その素材はコーネルから与えられた雑誌の切り抜き等であった。