第1展示室を入って最初に目をひくのは、青い目をした赤いロブスターのキャラクター。タイトルにはようこそロブスタープラネットへ!の文字。ロブスタープラネットってなんだ?みな誰もが思うと同時にどこか知っているアニメキャラクターのような懐かしさも覚えます。
この部屋にどーんと座っている立体作品が頭から被っているこれは何だろう?男性用小便器?!1917 R.Muttとサインがあります。現代アート好きな人ならわかるかもしれない。これがマルセル・デュシャンの《泉》という作品であることに。デュシャン(1887-1968)はこの、既製品である便器を向きを変えサイン(しかも偽名)を入れただけの作品を発表しようとして、「アートとは何か」を根底から覆そうと試みました。現代アートの金字塔のような人物です。
また、展覧会タイトルと一緒に展示されている作品を観てみましょう。
黄色い車を運転したロブスター。背後には円と半円の模様がありますが、それを突き破り飛び出すように描かれています。作品タイトルを拝見すると、《ロブスター・ステラ・カー》とあります。ここでアート好きはまたステラという名前とこの背後の模様がつながり、もしや、あのフランク・ステラ(1936-)では?と思うわけです。
この四角くない変形型の”シェイプト・キャンバス”もステラが創始者と言われており、コルバートは第3展示室でも同様のシェイプトキャンバスで《「泉」のロブスター》と《サボテンロブスター》を展示しています。なるほど、この作家は美術史を紐解くようにロブスターのビジュアルと絡めて著名な作品のモチーフや表現方法を使用し自身の作品の一部にしていることに気づきます。
この展覧会では美術史上の作家や、有名な作品のタイトルや構図、だれもが知っているアニメのキャラクター、その主人公の持ちもの、それから、SNS上に踊る絵文字やLikeマークや♡マークまで、我々がネット社会で現在日常に頻繁に目にしているであろうものが散りばめられています。これらが、どうやらコルバート作品を観る時のヒントになるようです。
たくさんの引用をする方法は現代作家には多く見られる表現傾向ですが、ビジュアルをそのままコピー&ペーストしたかのように描き、自分の作品に取り込み、且つロブスターという強烈なアバター(作家自身の分身)を立てて美術史に敬意を示し、新しい世界を生み出していく姿勢は非常にコルバートの野心を感じます。