向井修二(1940~)は記号をモチーフに作品制作をしているが、その考え方は、時代の先を行っていた。ほとんどの作家が素材や描法の革新に取り組んでいた当時、向井の考えは記号という物質ですらないもので世界を埋め尽くすというものであり、後の環境芸術を予見させるものである。
向井自身は絵画をひとつの空間(世界)と捉え、その内面に入ることに関心を持っていた。そのため、具体の作家の中最も興味があるのはそれを体現して制作している白髪一雄であったと述べている。
1962年にオープンした、大阪梅田のジャズ喫茶「チェック」では、店内の壁や家具などのすべてのものを記号で埋め尽くした。今でこそ、インスタレーションなどさまざまな表現手段が芸術として認められているが、この時代にこういった表現を実践した作家は殆どいなかったのではないか。その表現は素材としての物質を超越しており、どんなものにでも記号が描かれてしまう。過去の写真を見るとそれは作家自身も例外ではなく、作品の中に記号が描かれた本人が入り込んでいるものがある。向井の記号は増殖し、やがて全てのものを包み込んでしまう。
軽井沢ニューアートミュージアムの《記号で覆われたトイレ》
美術館のトイレを記号で覆う作業中の向井氏 (2014年)