河合ひかる「After the FLOOD」2020

あなたは見ず知らずの誰かに出会った時、どうやってその人を認識しているだろう。
顔や体の色形なのか、声なのか、それとも言語や装いか?あなたには何が聞こえて、何が見えていて、何に出会ったのか。あなたが今つかんだ記号や情報は誰のものなのか。

想像してみてほしい。私があなたの目の前に立ちはだかると、私は「アジア系の小柄な女性」として私はあなたの中に存在することになる。

私が言葉を発すると「英語ではない、母音が少ないアクセント」の音が聞こえてくる。そうしていつの間にか、あなたは私が何者であるのか、すでに予想をつけてしまっている。

このカテゴライズは、被カテゴライズ側の同意などお構いなしに行われる。
これはまさしく、無意識のうちに、誰かに暴力的な眼差しを向けていることになる。

展示空間は静寂に包まれている。しかし、突如としてその静寂を破り、大きく人間の顔が写り各々の言語で語り始める。それぞれの言語が混ざり合い、私たちはセリフを上手く聞き取ることが出来ずに混乱する。私たちが気が付くべきなのは、「自分が聞き慣れていて、見慣れている見た目の人の言葉」しか、心の中には入って来ないということだ。私たちの「予想」の精度も、キャッチできる記号の種類と量も、私たちの経験と偏見に大きく左右されている。

しかし、実のところ言語と話者が異なっているだけで皆、全く同じセリフを語っている。 このセリフは一体誰のものなのか考えてみてほしいと願う。

私たちの「予想」は止めることが出来ない。
      河合ひかる