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ナカムラ ジン

ChallengeWALL出展作家3人目のご紹介です。現代の新たな仏画を描くナカムラジンさんです。

ナカムラさんは軽井沢の歴史的建造物「油屋」にて、ギャラリー:Art Project 沙庭を運営しており、普段からアーティスト活動だけでなく企画担当もされている方です。

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そんなアーティスト活動以外にも幅広く活躍されているナカムラさん。作品も様々な素材を使い制作しており、平面作品だけでなく焼物も今回は出展いただいています。というのもナカムラさんは信州大学教育学部美術科工芸研究室を卒業し、元々は「鋳造」を勉強されていたそうで、陶芸とはまた異なりますが制作活動のスタートは焼物だったそうです。
焼物でも特に手本としたのは「古九谷」「古伊万里」といった彩色の華やかな焼物。その色使いや図柄といった部分が現在の制作に繋がったといい、何よりも純粋に絵を描きたいと感じたそうです。

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そして、現在の制作の中心となる「仏画」。ナカムラさんの描く仏画はどこか現代的で独自の描かれ方をしています。自身でも「現代アート」として仏画を描いていると語っています。古来の物をそのまま描くのではなく、前述の焼物にもありましたがあくまで色彩豊かな作品を描きたいそうです。
故に、描かれるのは悟りを開いたことで達観し飾りも無く身衣一枚の如来ではなく、その一歩手前の装飾が施された装身具を身にまとう菩薩を描くことが多いそうです。その方がやはり描き応えがあるとか。

古い物を大事にするという文化にあって、仏教・仏という物にはどことなく控えめで質素、まさに「わびさび」の言葉らしく華やかさとは真逆なイメージを持ちます。しかし、本来の仏教の世界観は極楽浄土を表現する場合や仏の神々しさを表すにあたって実に色鮮やかに表現されます。現代で見る仏画や仏像は長い年月による傷みや色落ちによって今の姿となっているだけで、実際に制作された当時は非常に派手な色使いが施されている物が多いそうです。ナカムラさんの色彩鮮やかな描き方は本来の仏画のあるべき姿・形であるとも言えます。

現代的に見えるのはその色彩だけではなく、仏が身にまとう装飾にもあります。仏が着飾る装飾はそれぞれの仏を表す重要な要素ですが、そういった小道具にナカムラさん独自のデザイン性が盛り込まれているのです。
佇まいや身に着けるべき装飾などは古来より描かれた姿・要素をしっかり押さえ、信仰の対象であるべき仏としての格式を損なうことなく描かれながらも、そういった細部へのこだわりによって現代の新たな仏画として表現されるのです。

上記ではあえて「現代的」という言葉を使いましたが、それは新しいという「未来的」という言葉に置き換える事もできます。仏教において弥勒菩薩は56億7千万年後に現在の釈迦如来に代わって救いを与えるとされるそうです。多くの宗教は偶像崇拝であり、仏の姿はそれらを当時の人々が想像して作ったものです。昔の人々がその姿を考えたように現代を生きる人が現代の新たな仏の姿を想像することは決して可笑しなことではなく、且、弥勒菩薩のように遥か未来の存在がいるのならば、その未来の姿を想像することもまた必然だと感じます。

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そして、仏画と合わせてナカムラさんが好んで制作しているのが「図像」を組み合わせた作品です。今回の出展作品ではリトグラフにポストカード、そして焼物があります。
日本での図像とは仏教用語として捉えられる言葉だそうですが、西洋的な見方では紋章学などを表すものであり、主題(意味合い)や象徴を視覚的に表した物だそうです。ナカムラさんはそういった図像、またはそれらをオマージュ・イメージして造られたレトロなデザインを日々収集しており、それを作品制作に取り込んでいます。
多くはパソコン上で幾つもの図像を組み合わせて一つの作品としてまとめ上げます。素材となる図柄の多くが主張の強いデザインであり、それを一つの作品に練り上げるのは高いセンスが求められます。ナカムラさんはデザイナーとしても活動しており、そこで磨かれたセンスが、あるいは逆にこの作品制作で培った技術が互いにデザイン力を高めこれらの作品を生み出しているのです。

培った経験が様々な素材での作品制作に反映され、かつそれらの道のり・年月が神仏を描くという行為に対して必要であり、作品の、仏のその姿に深みを増していくのです。
ナカムラさんの作品の数々をこの機会にどうぞご覧ください。

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小山利枝子

3人展2人目の紹介。小山利枝子さんです。

今回の出展作家では他のお二人が描くモチーフを人物ベースにしているのに対して、小山さんは唯一「花」をモチーフとして描く作家さんです。
そして、今回3名の出展いただいた作品で一際目を引くのが、小山さんの100号サイズの作品「魅惑にみちた出現」かと思います。画面いっぱいに描かれたその花には確かに「魅せる」何かを感じさせます。

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描かれている花はアブラナ科のストック。筆ではなく油絵用のブタの毛で出来たハケを使って描いていきます。アクリル絵の具を色水ほどにまで薄め、勢い良くただし花弁の方向や形を意識しながら流れに沿って丁寧に塗っていきます。花の持つ美しさを損なわないよう鮮やかさを維持するため混色は避けます。ただ、薄まった色を何度も塗り重ねることで彩度を保ちながら原色にはない色が表情として現れます。また、薄めた色は透明感を生み、硬さや重さを廃して柔らかさや軽さ、花本来の生命の揺らぎを感じさせます。

キャンバスに描く際に下絵は描きません。下絵があることで窮屈となり勢いや躍動的な印象が失われてしまうからです。また小山さんが線ではなく面で描く手法であることも理由の一つでしょう。
ですが、当然いきなりキャンバスに描くわけではありません。小山さんはキャンバスに描く前には必ず綿密なデッサンから入ります。具象を描く際の行為としてデッサンはもっとも基本であり、また対象を観察するという点で重要な行為と言えます。
ストックの花は僅か2cm程と小さく、デッサン自体はその等倍の大きさで描きますが、その「観察する」という行為が実物の何倍もの大きさで描く際の完成形をイメージさせ、作品の出来栄えを左右するのです。

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また、花が持つ生命の力強さ、美しさの表現が小山さんのテーマであり、観察はそれを知る対話的行動とも取れます。たとえ同じ花であっても花弁の形、色合いなどは異なります。観察による新しい発見というのは常に感じられるそうで、時に花弁の連なりが山脈のようにも見えるそうです。
顕微鏡で覗いた先にミクロの「世界」が感じられるように、2cm程の花の中にも繊密な観察によって広大な世界が見えてくるのです。故に何倍にも広がった大きなキャンバスにも抵抗や迷いなく制作に進むことができるそうです。

ただ、デッサンしたストックは実際にはピンク色をしていたそうです。一方、画面に描かれたものは春の芽吹きを感じさせるエメラルドグリーンです。デッサンを重視しながらも花が持つ空気感や、季節の移ろいによって意図的に変化を付けることもあるのです。また、形も決してデッサンと同じにはなりません。下絵がない分、その画面独自の流れがあるからです。また、画面が大きい分小山さん自身の動きにもリズムが生まれます。それは画面内の花の流れと自然と重なり、デッサンの形と異なりながらも違和感なく画面いっぱいに広がってゆきます。それによりただの具象絵画ではなく、ましてやデッサンの延長でもない小山さんのフィルターを通して「昇華」された形で作品となるのです。

近年、多様な芸術表現が日々生まれ、抽象表現的な分野が「現代アート」という中で多数を占めています。その中で自身の感情や社会的批判をテーマに作品に落とし込むことで時代が反映された作品が注目されているように見えます。
しかし、小山さんは作品に自身の感情や俗世間的な情報は一切投影しません。
表現すべきは花・対象が持つ生命の力強さ、美しさ。そこに余計な物を落とし込む必要はなく、僅か2cm程と小さくも咲き誇るそれらには広大な世界を覗かせるほど花は魅力に満ちています。
描くべきテーマは決してぶれることなく、常に真摯にその対象だけに制作が注がれる小山さんの作品をどうぞご覧くださいませ。

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飯島 洋子

Challenge Wall 出展作家のご紹介です。まず一人目は可憐な少女の作品が魅力的な飯島洋子さんです。

東京芸術大学で油画を学んだ後、企業パンフレットやイラストを制作する会社に就職をし、イラストやデザインの仕事をされていた飯島さん。しかし、それから10年間、絵と距離を置く時期が続き2001年に制作活動を再開。その再スタートとなったきっかけは、ここ軽井沢にあったそうです。とある美術館の展示会を見に軽井沢を訪れたとき、改めて美術、アートと向き合おうと思ったそうです。その後、アート活動を再開した飯島さんは個展、グループ展を多数開催し、東京を拠点にご活躍されています。

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飯島さんの作品は少女が主人公になっているものが多く、その美しさに心を惹きつけられます。飯島さんが少女を描き始めようと思ったきっかけは、睡眠中にみた夢の中で、ある少女が子供から大人へと成長して行く場面を見たことが始まりだったそうです。思春期特有の苦しい気持ちや不安が入り混じったそのなんとも言えない少女の眼差しが印象に残り、少女をモチーフにして描くようになりました。

今を生きる少女たちの心情に焦点をあてて絵を描き始めてから、実際にキャンバス上に描いた女の子にそっくりな子に出会ったり、また、初めて出会った女の子が絵のモチーフになっていることもあるようです。大人へと成長する思春期は、心も体もバランスが崩れやすい期間。未来に対する不安やもやもやした気持ちは女性なら誰でも経験したことがあるのではないでしょうか。「今を生きる少女の眼差しは私の少女期と重なります」、そう語る飯島さんも例外ではありません。飯島さんを含め、同じような経験や感情をもった人と絵を通じて繋がりたい。そんな願いも込められています。

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思春期の葛藤は、荒れ狂う混乱や矛先が定まらない怒りや苦しみではなく、一人の女性として自立するための、言うならば美しい女性として開花する準備期間と言えるでしょう。将来や生きることについて、自分自身とじっくり向き合う最初の時間かもしれません。飯島さんのまだあどけなさが残る少女からは、不安の中に見える夢や光、また女性の繊細さや可憐な一面が垣間見えます。

麻紙に油絵具、卵テンペラ、ある時は木炭や墨を使って描く飯島さんの豊かな技法にも注目です。西洋と東洋の絵画技法を組み合わせることによって、飯島さん独自の表現方法が生まれます。制作中に飼い鳥が麻紙を破いてしまうなんて裏話も。

現在は制作活動をされながら、イラストレーションのお仕事もされている飯島さん。信濃追分文化磁場油やさんのイベントスケジュールには飯島さんの坊やのイラストが表紙を飾っています。名前はずばり「油小僧」。実はこの油小僧の妹が展示作品の中にいるようで、飯島さん自身もとても大切にされているご様子でした。キャラクターと水墨画を合体させた作品制作は今後の試みのようです。

まるで別の次元の時が流れているかのような作品。語りかければ何かメッセージが返ってきそうな少女たちをどうぞご覧ください。

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