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会田誠: 天才でごめんなさい

2012年11月17日―2013年3月31日に六本木・森美術館にて行われた、会田誠の個展カタログ兼書籍です。

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表紙を一目見れば、会田誠が非常に俗っぽいイメージを用いる作家であることがわかります。会田は、俗世間での“満足”を疑っているようです。ありふれた美少女のイメージ、テレビゲームのイメージ等、現代日本を構成しているイメージ一つ一つを取り出し、そのすべてが何か大きな欠落を孕んでいることを突き付けます。

会田は巻頭で、「世界で最も偉大な芸術家」になるための10か条を挙げます。「同じことは繰り返すな。」「過去はどうだっていい。」「英語を喋るな。」「金には触るな。」「権力者や批評家に会っても、すぐに忘れろ。」「仕事するな。何も作るな。」…等々。表現者になるためには、“自分が芸術を生み出すのだ”という自己暗示に近い強い意志が必要ということでしょう。俗世間での“満足”のために仕事する・何かを作るのではなく、精神の表現さえ満足にできればよい、という考えが伝わってきます。

本書には、3名による会田の評論が収録されています。本展を企画した森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実氏は、会田の表現の特徴について、①扱うテーマによって表現媒体や表現のクオリティを自在に操っている②身近なものを通して新たな視点を示すことにより、人々の共感を呼んでいる、と指摘します。例えば、小学校の時に誰もが描かされた「平和」「希望」等の教訓的なポスターをそっくり再現し、「子どもの純粋を大人が利用する構図」への嫌悪を示します。その他、誰もが目にする日本画や、チラシ、美少女、サラリーマン、あるいは歴史・戦争・政治のイメージを用い、その日常にありふれたイメージの深淵を覗き込んでいます。

山下裕二氏(明治学院大学教授)は、“回顧展”を開催すること自体が、会田の芸術家としての姿勢と矛盾していることを指摘します。森美術館初代館長を務めたデヴィッド・エリオットも、会田の作品について「その全体像を捉えようとしても何も意味をなさないようにすら見える(それもわざと!)。」と記述し、会田の言葉―「僕の作品を時系列に沿って見ることは、例えばモンドリアンのような『前進する』画業とは違い、それほど意義があるとは思えません。」を引用しています。

しかし、会田が行ってきた多様な表現を見ることは、漫画家に憧れ、東京藝術大学で油画を学び、次第に現代アートの表現者となった会田誠自身の変化を知ることに他なりません。会田が新しい表現を生み出す時、同時代の空気の中にいる私たちも何かに変化しているのではないでしょうか。

学芸員 菊池 夏乃子

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